皆さん、こんにちは。
東京駅前歯科口腔外科の院長・宮澤利明です。

皆さんは、インプラントと聞いて、どのようなことをイメージされるでしょうか?
最近、TVでも盛んにCMをされていますので、言葉としてはよく聞くことと思います。

また、最近は、インプラント治療を行う歯科医院も増えてきており、以前よりも身近な治療になってきたかもしれません。

私自身、口腔外科専門医として、長年インプラントの施術に携わってきました。
その立場から、改めてインプラントについて、解説させていただきたいと思います。

インプラント治療とは?口腔外科の専門医が詳しく解説

目次

インプラントという言葉の意味

まず、「インプラント」という言葉についてです。
現在では、「インプラント」というと、歯科の治療をイメージされる方が圧倒的に多いと思いますが、実は本来は歯科の領域だけに限った言葉でありません。

英語では「implant」と記載し、「植え付ける」「注ぎ込む」「移植」といった内容を意味します。
医療では、歯科に限らず、体内に埋め込む医療機器や材料は、全てインプラントです。
ですから、人工関節や心臓のペースメーカー、美容整形のシリコン材料なども、全てインプラントです。

歯科では、顎骨(がっこつ=あごの骨)に埋め込む人工歯根がインプラントに当たり、より正確には歯科インプラントと呼ばれています。

ただし、一般的に、「インプラント」といった場合、歯科インプラントを指すことが多いと思われますので、以下、インプラントと書かせていただきます。

なお、本来は、埋め込む医療器材…歯科であれば、人工歯根そのものをインプラントと呼びます。
しかし、一般的には、人工歯根を使った治療そのものも含めてインプラントと呼ばれているので、ここでも治療も含めた一般的な用語としてインプラントと使わせていただきます。

インプラント治療とは

何らかの原因で歯を失った場合に、その歯が無い部分の顎骨に人工歯根(インプラント)を埋め、その人工歯根に義歯を取り付ける治療方法がインプラント治療です。

虫歯や歯周病、あるいは外的な要因によって、歯を失った場合や、先天的に歯が無い場合などに行われます。

人工歯根を埋めるスペースがあれば施術が可能なため、1本から治療が可能です。
また、全ての歯を失った場合にも、対応することができます。

インプラントの構造

歯科インプラントは、インプラント本体・アバットメント・義歯の3つの部分で構成されます。

まず、顎の骨に埋め込む人工歯根=インプラント本体があります。(※厳密にいえば、このインプラント本体のみがインプラントです)
インプラント本体と、義歯をつなげる部品をアバットメントと呼びます。
その上に、義歯を装着します。

中には、アバットメントを用いず、インプラント本体に直接、義歯を装着する場合もあります。

義歯を、スクリューやセメントを用いて、義歯本体あるいはアバットメントに直接装着した場合、自分自身で義歯を取り外すことはできなくなります。

逆に、特殊なアタッチメントを用いて、脱着可能にしたインプラントオーバーデンチャーという方法もあります。

一般に、固定した方がより、自然で強度も高くなりますが、取り外し式の場合、義歯のお手入れが楽になったり、修理がしやすくなるといった利点があります。

インプラントの素材

インプラント本体=人工歯根の素材は、主に、チタンあるいはチタン合金が用いられます。
チタンは、金属の中でも、アレルギー反応が起きにくい素材で強度も高いため、良く用いられます。

非金属では、ジルコニアなども用いられるケースはありますが、あまり多くはありません。

アバットメントに関しても、チタンが主流ですが、審美性の観点からジルコニアを用いるケースもあります。

義歯に関しては、通常の入れ歯や補綴(かぶせ物)と同様に、さまざまな種類があります。
より自然なジルコニアや、金や銀など、インプラントの場所や目的によって、選ぶことができます。

天然歯とインプラントとの違い

インプラント治療は、天然歯に近い、噛み心地となり、一度失った噛む機能を回復できる治療です。
また、天然歯と異なり、人工物ですので、虫歯になる心配もありません。
素材を吟味すれば、天然歯と見分けがつかない…天然歯よりも美しい外観にもできます。

しかし、インプラントには、天然歯に及ばない部分もあります。

天然歯には、「歯根膜」と呼ばれる組織があります。
歯根膜は、歯の根っこ部分を覆う、厚さ0.2~0.3mmほどの薄い組織です。
これがインプラントにはありません。

歯根膜は非常に薄い膜ですが、さまざまな機能を果たします。

まず、歯根膜は、噛む時の衝撃を吸収します。
人間の噛む力は相当に強く、顎には常に衝撃が加わります。
天然歯は、歯根膜によって、この衝撃を和らげていますが、インプラントにはそれはできません。

このため、インプラント部分に負担がかかりやすくなり、思わぬ口内トラブルになることがあります。
従って、インプラントの場合は、より緻密な嚙み合わせの調整が必要になります。

また、歯根膜には血管が通っています。
歯の周辺には、歯根膜、歯肉、歯槽骨の3カ所から血液が供給されますが、この1つが欠けることになります。

細菌などに対抗する白血球が少なくなり、また、栄養素の供給も少なくなるため、天然歯に比べて、抵抗力が弱くなるとされます。
インプラント周辺の組織が炎症を起こすインプラント周囲炎には、特に気を付ける必要があります。

このように天然歯に劣る部分があるため、インプラント治療を行った場合は、より小まめなメンテナンスが必要になります。

入れ歯・ブリッジとインプラントとの違い

歯を失った場合、インプラント以外にも、入れ歯やブリッジといった治療法があります。
これら3つの治療法は、それぞれメリット・デメリットがありますので、その違いを知り、自分に最適な治療を探すことが重要です。

入れ歯には、「部分入れ歯」と「総入れ歯」の2種類があります。
部分入れ歯は、義歯をクラスプと呼ばれる金属製のバネを使って固定するものです。
義歯を入れる両隣の歯にクラスプをひっかけて固定します。

また、総入れ歯は、義歯を、顎の形を模したピンク色の土台並べ、その土台ごと装着するものです。

外科的な手術が必要なく、保険も適応され、治療費は安く抑えられます。
ただし、審美性は他の治療に劣り(特に部分入れ歯の場合、クラスプが目立ちます)、寿命も短いため、定期的な通院が必要になります。

ブリッジは、失った歯と、その両隣の歯を一体型の義歯として作成します。
失ったの歯の両隣の歯を削り土台として、そこに装着します。

外科的な手術が不要で、保険も聞くため、費用を安く抑えることができます。
一般的に、入れ歯よりも高くなりますが、インプラントよりは安く治療できます。

歯の寿命は、入れ歯よりは若干長くなりますが、インプラントには劣ります。

また、部分入れ歯やブリッジは、失った歯の両隣の歯に影響がある(クラスプがあたる、土台にするため削る)ため、それを嫌う方もいます。

一方、インプラントは、入れ歯やブリッジに比べて、保険が適応されず、費用は高くなりますが、自然な噛み応えになり、強度も高く長持ちです。
審美性もにも優れています。

どの治療法にするかは、欠損した部位や審美性、予算などを総合的に検討して選ばれると良いでしょう。

インプラント治療が受けられない人

ほとんどの方は、インプラント治療を受けることができますが、中にはできない方ももちろんいます。

まずは、重度の全身疾患がある方は、基本的に、インプラント治療が受けることはできません。(この場合、他の歯科治療もたぶん難しいと思いますが…)
例えば、がんや心筋梗塞、骨粗しょう症、糖尿病、自己免疫疾患、出血しやすい病気の方などが該当します。

また、インプラント本体は主にチタンが使われますので、チタンアレルギーの方も難しいと言えるでしょう。(チタン以外の素材もありますが、強度は劣ります)

虫歯や歯周病など口内トラブルを抱えている場合は、それらの治療が終わってからにする方が良いでしょう。口内トラブルがある方は、歯科医師にしっかりと相談されると良いです。

その他、顎骨量が少ない方もインプラント治療は難しいとされます。
このようなケースでは、事前に顎の骨の量を増やすための施術が必要になる場合があります。

なお、施術の箇所や内容によっては、歯科医師側で治療を断る場合があります。
頭部には、重要な神経や血管が集中しているため、万が一が発生した場合、最悪、死亡事故につながるからです。
※当院では、他院で断られたケースでも、施術可能な場合がありますので、お気軽にご相談ください。

インプラントのメリット

ここまでインプラント治療について詳しく見てきましたが、ここからはインプラント治療を行うメリットについて書かせていただきます。

自分の歯と同じように咀嚼可能

インプラント治療の最大のメリットは、天然歯と同じように咀嚼(噛むこと)ができることにあります。
顎骨に人口歯根を埋め込み、義歯をしっかり固定しますので、しっかりと噛むことができます。

入れ歯やブリッジの場合、人によっては強く噛めなかったり、間に粒粒が挟まってしまい、良く噛めないとお悩みなるケースがあります。
また、熱いものを口に入れた際に違和感を感じる方もいますが、インプラントでは、そういったケースはあまり聞きません。

残った歯を守ることができる

入れ歯の場合は、クラスプを引っかけるため、ここに負担がかかります。
また、食べかすなどが残るなど、虫歯の原因になる可能性もあります。

ブリッジは、土台にするために、両隣の歯を削ります。
健康な歯を削ることそのもに疑問を感じられる方もおりますし、歯の表面を削ることで、歯の強度が落ち、そこから口内トラブルになるケースがあります。

インプラントの場合、両隣の歯に負担をかけることはありませんので、このような心配はありません。

骨が瘦せるのを防ぐことができる

インプラントは、人工歯根を骨の中に埋め込みます。
これにより、噛んだ衝撃が顎の骨に伝わります。

一方、入れ歯やブリッジの場合、顎の骨とはつながっていないため、直接、顎の骨に衝撃が伝わりません。
刺激が少なるなると、その部分の骨が痩せていくことが知られています。

顎の骨が痩せると、その周囲にも影響が出るため、健康な歯にも悪影響が出る可能性があります。

メンテナンスが容易

インプラントは、治療後、歯科医院での定期的なメンテナンスが必要になります。
しかし、自分で行うメンテナンスは天然歯と同じです。

特別な洗浄作業やお手入れが必要な入れ歯やブリッジよりも、手間がかかりません。

インプラントのデメリット

次にインプラント治療のデメリットを書かせていただきます。

外科手術が必要

インプラント治療は、顎の骨にインプラントを埋め込む手術を行う必要があります。
麻酔が必要な外科手術になりますので、一般的な外科手術と同様のリスクがあります。

また、頭部には重要な神経や血管が集まっているため、外科手術の失敗が、そのまま命の危機に直面する場合があります。

治療費が高額(保険適応外)

インプラント治療は、入れ歯やブリッジと異なり保険適応外の自費診療です。
また、インプラントに用いる素材も元々が高額なため、トータルの金額は、かなり高くなります。

術後に定期メンテナンスが必要

入れ歯やブリッジと異なり、インプラントの場合、治療期間も長くなり、術後も定期的なメンテナンスが必要になります。
治療内容や術後の経過など、人によって異なりますが、術後半年程度は、定期的な通院が必要になります。

インプラント治療のリスク・副作用について

どのような治療でも、かならずリスクが伴います。
施術を受けるあたっては、どのようなリスクがあるかを、しっかり把握しておくべきでしょう。

インプラント治療のリスクとしては、まずは、人為的なミスが発生する可能性があります。
これは、インプラント治療に限りませんが、外科的手術を人間が行う以上、ミスする可能性は皆無ではありません。

特に頭部は、重要な欠陥や神経が集まっている部分ですので、ちょっとしたミスが人命にかかわる可能性もあります。

術前の検査や診察が不十分であったり、担当する執刀医の技術や経験が不足しているなど、ミスにつながる要因はいろいろと考えられます。

手術のリスクについては、必ず担当医から事前に詳しい説明を受けることをお勧めいたします。

また、術後にインプラントが抜け落ちたり、顎の骨を突き抜けてしまったという症例を聞くことがあります。
これらは、事前の検査が不十分であったり、古い検査機器を使用していたり、と骨の状態をろくに確認せずに施術していまった場合に起こりえます。

ただ、最新の検査機器を使い、事前に十分調べていれば防げることですので、しっかりした歯科医院を選べば防げるリスクです。

この他、代表的なリスクとしては、インプラント周囲炎という炎症が発生することがあります。
天然歯との違いの項で説明も説明いたしましたが、インプラントは天然歯に比較して、抵抗力が弱くなります。
インプラントの周囲に炎症が発生し、これを放置しておくと、最悪、顎の骨が溶け出してしまいます。

また、抵抗力が弱くなるため、歯周病などの口内トラブルが発生するリスクも上がります。
ただし、インプラント周囲炎にしても歯周病にしても、術後の定期的なメンテナンスで、リスクを大幅に減らすことができます。

もう1つ特に気を付けるべきものに、金属アレルギーのリスクがあります。
インプラントで主に使用されている素材はチタンですが、チタンはほとんど金属アレルギーを引き超すことは無い、とされています。

しかし、まれにチタンでもアレルギー症状を起こす方はいますので、事前のアレルギーテストを行うことをお勧めいたします。

代表的なインプラントメーカー

世界的に見れば、インプラントを製造しているメーカーは100社以上存在すると言われています。
この内、日本で認可が下りているのは約30社程度です。

以下、有名なメーカーをいくつかご紹介いたします。

ストローマン

スイスに本社がある世界最大のインプラントメーカーです。
インプラントの世界シェア1位とされています。
ただし、価格も高く、また、規格の種類が少ないため、欧米人に比べて顎の骨が細く、個体差も大きい、日本人にはフィットしない場合もあります。

ノーベル・バイオケア

スイスに本社がある老舗のインプラントメーカーです。
世界で初めてインプラント治療を行った会社として知られ、最も長い歴史を持っています。

オステム

インプラントの際に、歯が抜けた部分に打ち込むネジのような部品をフィクスチャーと呼びますが、そのフィクスチャーのシェアで世界1位の韓国のメーカーです。
ストローマンやノーベルに知名度では劣りますが、規格の種類が多く、最適なサイズのインプラントを選びやすいといった特徴があります。

AQB(エー・キュー・ビー)

国産のインプラントメーカーで、金属であるインプラントと骨・歯肉の結合性を高める独自技術を持っています。
治療期間も他のインプラントよりも短く済む利点があるとされています。

アストラテック

スウェーデンに本社を持つ世界的インプラントメーカーです。
世界4大インプラントメーカーともされますが、規格のサイズが日本人からすると大きく、顎の骨が欧米人よりも細めの日本人にはあまり向かないかもしれません。

インプラントの価格

インプラントのデメリットで、入れ歯やブリッジに比較して高価であるという説明いたしましたが、より具体的にインプラントの価格について、説明いたします。

インプラント治療の価格は、主に

1)インプラント・アバットメント・義歯の価格
2)手術費用
3)その他の費用

の3つで構成されます。

この内、「1」がかなり高額で、選ぶメーカーによっても大きく価格が異なります。
ただし、インプラントの素材については、大量に使用してもメーカーはさほどディスカウントしませんので、実は医院によってそれほど大きな差は出ません。
※ただし、見えない部分の部品に、安いものを使用して、経費を浮かせて価格を下げるといった話も聞きますので、使用する素材については、事前に詳しく説明を受けられると良いでしょう。

費用が大きく異なるのは、「2」と「3」です。

手術費用はイメージしやすいかと思いますが、その他の費用としては、事前の検査費用やスタッフの人件費などがあります。
検査や手術に用いる機材はかなり高額であり、スタッフも専門職になるため人件費が当然、高くなります。

また、手術については、あまり知られていないことですが、インプラント治療では、再手術になるケースがあります。
事前の検査が不足していて、そもそもやり直しになるケースや、術後の経過が思わしくなく、再術になる場合などがありますが、そのような時に、再手術の費用を請求することは難しいでしょう。

一部の医院では、そのような再手術に備えて、あらかじめ手術費に再手術の費用を上乗せして設定するケースがあると聞きます。

なお、当院の治療費は他院に比較しても安いと良く言われるのですが、これは「2」「3」が影響しています。

まず、当院は、インプラント治療の件数が非常に多く、機材や人件費に換算した場合、1件1件について低く設定することが可能です。
また、手術についても、再手術になるケースはほとんどないため、そもそも、再手術の費用を上乗せする必要がありません。

ですから、相対的に安く治療費を設定することが可能になっています。

歯科医院の選び方

最後に、インプラント治療を受ける際の歯科医院の選び方について、簡単にアドバイスさせていただきます。

まず、リスクの説明でも書かせていただきましたが、インプラント治療には、外科的手術が必要になります。
頭部には、重要な血管や神経が通っているため、ちょっとしたミスが人命に直結します。

事前の検査精度や分析、手術の経験・技術の差が顕著に影響しますので、なるべく経験豊富な医院を選ぶことをお勧めいたします。

当然、口腔外科の専門医、特にインプラントを得意にする歯科医師のいる医院を選ぶと良いでしょう。

検査機材についても、旧式のものと最新のものでは、精度にかなりの差が出ます。
最新の機器では、骨密度なども事前に計測できますので、常に最新の設備導入を心がけている歯科医院の方が安心です。

また、事前の説明に時間を割いているかどうかも重要です。
外科手術を行うことを考えても、治療内容の詳しい事前説明は重要です。

それだけでなく、インプラントは使用するメーカーごとに規格が異なり、どのメーカーのものが患者さまの骨の状態に最適かはケースバイケースです。
しかも、メーカーで大きく価格も異なります。

治療計画の説明の際に、使用するメーカーや治療の内容、費用の内訳など、納得いくまで説明を受けられる医院を選ぶことが重要です。

また、一度の説明で納得いかなかったり、他の医師の意見を聞きたいといった場合は、ぜひ、他の医院にも相談し、セカンドオピニオンを受けられると良いでしょう。

インプラント治療はかなり高額な上、一生付き合うことになるものです。
自分自身が納得できることが一番大切だと思いますので、気になることは、何でも歯科医師に相談すると良いでしょう。